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Duffelcoatの歴史【第6回】
イギリス海軍との出会いとデザインの確立 ダッフルコートは、ベルギーのダッフル(Duffel)という町の厚手の粗毛織物を使用した、もともと北欧の漁師たちが着用していた作業着にルーツを持ちます。この極めて 耐久性と防寒性の高い コートが、19世紀後半、 イギリス海軍 の目に留まることになります。 1890年代になると、その機能性が極寒の海上での任務に最適であると評価され、**海軍の制服(防寒着)**として正式に採用されました。この時期に、現在のダッフルコートの象徴的なデザイン、特に以下の要素が確立されました。 トグルボタン(Toggle Fastener): 厚手のグローブをはめたままでも素早く留め外しができるように考案された留め具。 大きなフード(Hood): 荒天の洋上での風雨や寒さから頭部を守るため、大型でゆったりとしたデザイン。 粗いメルトン生地(Duffel Cloth): 撥水性に優れ、厳しい寒さに耐えるための厚手で丈夫な生地。 これらの特徴は、まさに 極寒の海上 という過酷な環境下での 実用性 と 生存性 を追求した結果であり、ダ
11月13日


Duffelcoatの歴史【第5回】
トグルボタンの歴史において、初期の素材選びは 水牛の角 や 木材 に集約されていました。これは、極寒の環境下での実用性と耐久性を追求した結果です。 特に 水牛の角 は、その自然素材ならではの 高い強度 と、一つとして同じものがない 独特の風合い (色や模様)が重宝されました。角は緻密な構造を持ち、摩耗に強く、長期間の使用に耐える耐久性を持っていたためです。 トグルボタンが使われるダッフルコートは、もともと北欧の漁師やイギリス海軍の防寒着として用いられていました。船上や極寒の地といった厳しい環境で、着用者が**厚手のグローブ(手袋)**を着用したままでも、容易に掴みやすく、素早く留め外しができる必要がありました。 水牛の角や木材といった素材は、 冷たくなりにくい という点でも優れており、 手袋をした状態での「握りやすさ」と、防寒着の留め具としての耐久性 という、二つの絶対的な要求を満たすための最適な選択肢だったと言えます。 現代においても、 高級なダッフルコート にはこの伝統を受け継ぎ、天然の 水牛の角 がトグルボタンの素材として採用されることがあ
11月6日


Duffelcoatの歴史【第4回】
【第4回】特徴的な留め具:トグルボタンの誕生秘話 ダッフルコートの象徴であり、そのデザインを決定づけている最大のアイコンが、棒状の「トグルボタン」とその「ループ」による留め具です。この特徴的なディテールには、極寒の海で働く漁師たちの、生存のための切実な知恵と工夫が凝縮されています。 1. 誕生の着想:船と漁の道具 トグルボタンは、単なる装飾ではなく、機能性を追求した結果生まれたものです。その着想源は、海での仕事に欠かせない要素から得られたと考えられています。 「留め木」からの転用説: 最も有力な説として、船の帆やロープを甲板に繋ぎ留めるための**「留め木(ペグ)」**の構造からヒントを得たというものがあります。このシンプルな構造をコートに応用することで、ロープや紐に棒状のトグルを引っ掛けるという、極めて単純かつ確実な開閉方法が生まれました。 「漁師の浮き」モチーフ説: また、漁師が網やロープの目印として使う**「浮き」**をモチーフにしたという説もあり、いずれにしても海での作業道具と深く関連しています。 2. 極限環境での機能美...
11月4日


Duffelcoatの歴史【第3回】
【第3回】北欧の漁師の知恵:原型となった作業着 ダッフルコートの具体的なルーツをたどると、「北欧の漁師が着用していた極寒の海での作業着」という説が最も有力です。この作業着は、過酷な環境で働く海の男たちの実用的な知恵と工夫が凝縮されたものでした。 1. 極寒の海に対応する素材 スコットランドや北欧の漁師たちが暮らす地域は、強風が吹き荒れ、冷たい海飛沫が絶えずかかる厳しい環境です。彼らが着用していた原型となるコートは、この極寒の環境から身を守るために、 厚手のウールメルトン生地 で作られていました。 この生地は、織りが非常に密であるため、高い 防寒性 と、ある程度の 撥水性 を兼ね備えていました。これにより、凍てつく風を遮断し、多少の雪や雨、海飛沫を弾くことができたのです。 2. 作業効率を高めるディテール 現代のダッフルコートの最も特徴的なディテールは、漁師たちの作業着としての機能性を追求した結果生まれたものです。 トグルボタン(Toggles): ダッフルコートの象徴であるトグル(角状の留め具)は、極寒の船上でかじかんだ手や、...
10月31日


Duffelcoatの歴史【第2回】
【第2回】生地の特性:厚手のウールメルトン地「ダッフル」 ダッフルコートの起源は、まずその「生地」 にあります。ベルギーのデュフェルで生まれた 「ダッフル」生地は、一般的なウール地とは一線を画す特性を持っていました。 この生地の最大の特徴は、 起毛加工 と 圧縮された厚み です。羊毛を密に織り上げた後、表面を毛羽立たせる(起毛させる)ことで、生地の中に空気の層をたっぷりと含ませています。これにより、高い 防寒性 と優れた 断熱性 を実現しました。さらに、強い圧縮加工によって密度を高めているため、荒天にも耐えうる 耐久性 と、風を通しにくい 防風性 を備えていました。 もともとこの生地は、その丈夫さと安価さから、衣料品だけでなく工業的な用途にも使われていました。例えば、軍用の 弾薬箱の内張り として利用されていた記録が残っています。弾薬を運搬する際の衝撃を吸収する クッション材 として、その厚みが重宝されたのです。 つまり、「ダッフル」生地は、当初から「極限の環境下で、衝撃や寒さから中身を守る」 という使命を担っていました。このタフネスこそが、後に
10月28日


Duffelcoatの歴史【第1回】
【第1回】ダッフルコートの名の由来 誰もが知る冬の定番アウター、ダッフルコート。 その名前は、一着のコートが歩んできた壮大な歴史の最初のピースであり、 実はヨーロッパ大陸にルーツがあります。 コートの名称は、ベルギーのアントワープ州にある小さな町、 「デュフェル(Duffel)」に由来しているのです。 このデュフェルという町は、古くから毛織物産業が盛んな地域でした。 ここで19世紀初頭に生産されていたのが、 「ダッフル」と呼ばれる厚手のウール織物です。 これは、目を詰めて織られた後に起毛させることで、 高い防寒性と驚異的な耐久性を実現した、非常に丈夫で粗い生地でした。 この特徴的な生地が評判を呼び、やがてこの厚手のウール地自体が 「ダッフル」という愛称で呼ばれるようになります。 そして、その生地を使って仕立てられたコートが、 自然な流れで「ダッフルコート(Duffel Coat)」と名付けられたのです。 コートの具体的な原型は北欧の漁師服に求められますが、 この厚手のウール生地と、その名の起源は、遠く離れたベルギーの小さな町にあります。
10月23日
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